朝の身支度

●朝のご用意が遅くて・・・というお母様へ
お帰りの時や懇談でよくお聞きすることです。特に入園されると、自分で用意をしないので、毎朝やいやい言ってお母様方は疲れるし、幼稚園児にもなって自分では何もし始めようとしないので、心配 になられるのでしょう。

対処法として、時計の読み方を教えれば、時計を見ながら少しは焦って用意 をしてくれるのでは・・・とお考えになる方も多いようです。お母様としては、それなりに促しもし、 教えもしたはずなのに、それでもボ−ッとして、動く気配がないし、「ああして、こうして」と逐一 言わなければ動こうとしない子どもにイライラもされるでしょうが、幼稚園生活を就学に向けての準 備期間だと捉えると、生活全般、お母様の係わり全般を見直して、日々過ごし方を変えていく必要が あります。

まず、以下のことを見直してみましょう。
1.生活全般において、自分の身のまわりのこと(基本的なこと)は、指示がなくても、先を読んで行動がとれているでしょうか。(「もうすぐご飯ですよ。」という一言でお片づけを始め、手を洗 いに行く。外出から帰ったら、自分で洗面所に行って手を洗うなど)
2.朝だけでなく、一日の自分の生活がどのように流れるのかを把握しているでしょうか。
 (幼稚園に行ってから、夜寝るまでの行動も含めて。曜日によってその流れが違うことも理解し ている)
3.一日の中に、朝・昼・夜という時間の流れがあることを理解しているでしょうか。
 (時間帯によって、ご挨拶の使い分けができるなどでチェックすることができます。)

朝起きて、幼稚園に行くまでの時間、お子様が自分で何をするのかを一度話し合ってみましょう。ご家庭によって、着替え・食事・歯磨きの順序は違うと思います。例えば、寝起きの悪いお子様であれば、先に食事をして、その後歯磨き、着替えという順番でも良いと思いますし、食事に時間が掛かるお子様であれば、さっさと着替えを済ませてから食事にするといったお子様に合わせた時間配分を考えてみるのも1つの方法です。

しっかり目を覚ますために、お部屋のカ−テンを開けるといったお手 伝いをまずしてから、自分の用意を始めるというのもよいでしょう。
また、年中児にもなれば、促しや手伝いなしに、自分でさっさとご用意ができることが望ましいわけですが、2〜4歳児であれば、さっさと用意ができることが望ましいことを伝えるためにも、お母様が横について、着替えの様子を見ながら、「次は何するの?」「シャツかな?ズボンかな?それとも 靴下かな?」など答が出ない場合や、動きがない場合には、選択肢も与えながら、ダラダラせずに用意ができるように接してあげましょう。

そして、早く終わったら、「わ〜、今日は早く用意ができたから、何して遊ぼうか」など早くできることが良いことだということ、余った時間は自分の使いたい時間にできることを褒める言葉で伝えてあげましょう。

殆どの衣服に関してお母様が手伝うことがなく、朝の流れも理解ができているようであれば、任せてみることが大切です。「何でも一人でできるから、あなたに任せるわね。」と言ってさせてみましょう。任せて見守っていると、どういうところ、どういう時に動きが止まってしまうのかが見えてきます。

いざ任せてみると、遊ぶ誘惑に負けて、片袖を通したままであったり、ズボンだけ着替えて上はパジャマのままで遊んでいることもあるかもしれません。それは、すべてがうまく行くまでの過程ですので、叱らずに見守っていきたいことなのですが、ついついお母様方はお小言を言ってしまうことが多いようです。

掲示板や懇談などでもお伝えすることが多いことですが、子どもたちは、大人に褒められて、「良いこと」「良い行動」を学んでいきます。「そこがいいね。」と言ってもらうと、具体的な行動の仕方を学ぶことができます。

朝の身支度に関しても同じで、「えっ、今日はそんなに早くシャツが着られたのね。」「もう、ズボンがはけちゃったの?!」など、良い行動がとれているときに、関心を持って言葉を掛けてあげましょう。

悪いところ、できていないことを伝えられるより、できていること、良いところを伝えてもらった方が、嬉しいですし、前向きな気持ちを育てます。
「早くしなさい。」というのは、子どもたちには、何も伝わっていないものです。幼い子どもたちは、時間の量(例えば、起床してから朝食をとるまでの時間)がどれぐらいあるのか、わかっていないのですから、「早く」「さっさと」という言葉に対して、自分がどれぐらいの時間をかければ早くて、 どれぐらいになれば遅いのかという理解はしていません。たとえ時計の読み方を教えても、1分の長さ、1時間の長さ、午前中の長さなどに対して、体得していないのが幼児です。

わかりやすい例でいうと、幼い子どもたちは、1週間前のことでも「昨日」と言ってみたり、ついさっきのことでも「昨日」と言ったりします。時間の量に対する感覚がまだ育ってきていないのです。

それは悪いことではなく、 能力的に劣っているということでもなく、幼児というのはそういうものです。就園して日々規則正しい生活を送り、1日の流れ、1週間の流れ、1ヶ月・1年の流れを体感していく間に、他の理解力も伸びて少 しずつ理解していくものです。それらの理解が進んでいくと、自然に時計の読み方にも注意を払うように なります。自分の見たいテレビ番組が何時からとか、幼稚園の開門が何時といった具合に、言葉として時間を知ると、それに結びつく時計にも興味を持つようになります。

さて、ここで、就学前の準備期間だと捉えた場合、やらない方がよいことを挙げておきます。
1.「はやくしなさい」「さっさとしなさい」を連発しないこと。 (上記に述べたように、意味がない言葉です。)

2.時計の読み方を教えない。(時計を見て時間が読めたからといって、身支度をスム−ズに行うこととは結びつきにくい。今日の日付・曜日が理解できるようになり、時計に興味を持った時に教えてあげましょう。)

3.指示を多く与え過ぎない。 (いつまでも、ああして、こうして・・・と指示を与えていると、自分で考える必要がなくなります。 所謂「指示待ちの子」です。)

時計の読み方を教えるよりも有効な方法は、お母様の身支度や生活の流れを通して、「そろそろ○をする 時間ですよ。」と暗に示す方法です。例えば、お母様が、「もうすぐご飯を入れますよ。」と言えば、それ までに、着替え終わっていなければならないとか、お母様がドレッサ−の前に座ったら、自分は幼稚園の カバンを持って玄関で靴を履く時間だ・・・というように、お母様がこれをしたら、自分はそろそろこれ をしなくてはいけないということを理解させていくのです。

朝テレビがついているご家庭であれば、「こ のコ−ナ−が終わったら出かける時間よ」と毎日くり返し伝えていれば、自分がでかけなければならない 時間をテレビの内容を通して理解することができます。同じように、朝のお母様の行動や生活の流れを通 して、自分の時間も推測がつくようになっていきます。同時に周りの様子にも段々と注意を払えるように もなるでしょう。

お子様によっては、1つの事をするのに時間が掛かる子がいます。寝起きが悪いことも含めて、時間が掛かる場合は、その時間を余分に見積もって早起きをさせましょう。どれぐらい立てば、しっかり目が覚めて行動がとれるのかは、お母様が一番ご存知のはずです。30分かかるなら、その分早起きをさせて、余計な指示やお小言を言わなくても済む環境を作ってあげてください。

また、1つ1つの事柄や物について、 よく見ること、よく考えることを大切にしようと考えると、絶対に多目の時間が必要になります。行動がゆっくりなお子様の場合は、それ以上に余分な時間を見ておかなければならないでしょう。せき立てるよりも、「次は何するの?」と聞く時間を持って答えさせ、「わかってるじゃない!じゃあ、次はそれね!」 と次に向ける言葉を掛けてあげる時間がいります。

そして、途中の様子をみて、もうボタンが1つとめられてるわ。早くできたね。」と褒められれば、「じゃあ、次も早くやってしまおう!」と子どもも思うことでしょう。1つの行動に時間が掛かるか否かは、様子を見守ることで見えてきます。

ゆっくりすることが悪いわけではありません。時間が掛かっても、丁寧に見て、丁寧に取り組んでいる子もいます。靴下のかかとの位置をゆっくり見て、考えて、選び出す作業をしている子もいます。そこで、せき立てる必要はありません。その「ゆっくり」は、学習している時間として捉えるお母様の余裕も必要です。

時間に追われる毎日ですが、時には遅刻をさせてでも、自分から動き出す日、時を待って、 「やっと動いてくれたね!お母さんは待ってたの」「よく気づけたね。自分でできるって気持ちがいいね。」と嬉しい表情を見せてあげてください。

「私が自分で始めた行動をお母さんは見て、喜んでくれた!」と感じれば、「また頑張ろう」という気持ちになるでしょう。もし、用意が早くできたなら、お膝に乗せて本を読んだり、遊んであげて、お子様の言葉に耳を傾ける時間にしてあげましょう。親子良い時間の取り方が、お子様の励みになるでしょう。